1 今回、映画や音楽を中心とした雑誌「Farben」を創刊しようと思い到った経緯などを教えていただけますか。
発信する場が欲しいという思いからです。
今回は雑誌自体のテーマにも通じるものがあった事で、「私の男」の脚本を掲載していますが、面白い物語が脚本家から生まれているのに様々な状況によって映画化ができずにそれを発表する場が無いのは勿体ないというか、悔しく思うことがよくあり、そういったものを出せる場所が欲しいと常々思っていました。
あと、紙上で音楽を感じる何かができないかと思った出来事が個人的にあって、音楽の記事を寄せ集めるのではなくて、何か違う形をとったものが出来ないかと宇治田さんとよく話していて、それは冊子A-1の「音楽を絵でリアレンジ」に繋がっています。
2 レコード型の本というコンセプトや考えをお聞きしたいと思います。なぜこのような形態にされたのでしょうか。
紙で出す以上、WEBとは差別化したものを出したい、というのが最初にありました。
手元に残したいと思える、コレクションになるような雑誌を作りたい―それを掲げるために、音楽のジャンルの中で、コレクションとして認知されているレコード型という形をとりました。
レコードジャケットのように、飾る事ができるというのもポイントです。
冊子A-1の、カードになっている漫画家さんの絵も、是非飾って個人的に楽しんでもらえたらと思います。
3 「見えないものを見る」という全体のコンセプトについて詳しく教えて頂けますか。
またそれをコンセプトとして掲げた理由を教えて下さい。
「見えないものを見る」というのは、様々なジャンルで活躍されている作り手の視点や発想の原点を想像してみる、その思考を辿ってみる、という事でもあります。
例えば冊子A-1の「音楽を絵でリアレンジ」は、それぞれの漫画家さんがその楽曲のどこに目を向けたかを想像してみると、絵に対しても楽曲に対しても自分の中で広がりが生まれます。それぞれの冊子に登場する人たちの視点を辿る=あらゆる可能性に目を向けてみるとも言い変えられるかもしれません。
与えられるままではなくて、能動的に発見をしていく雑誌、というのも面白いのではないかなぁと思って「見えないものをみる」をコンセプトにしました。
○作り手の視点や思考を辿ることの意味はなんでしょう。そうすることで何が起きるのでしょうか
視点や思考を辿るというのは、宇治田さんと話をしている時に、私が常々面白いなと思っていたことなのですが…まず新しい題材の話がきた時に、原作がある場合はその原作の、モデルとなる人物がいる場合はその人物の、思考を辿る話になります。
私はほとんど聞いているだけですが、それを知っていくというのは面白い制作過程だと思いました。まず、そのものに対しての理解が深まりますし、発見があります。
もしかしたら作り手の方や、作り手を目指す方が読んでも面白いかもしれません。
4 今回、参加されている音楽家、マンガ家、研究家といった各アーティストの人選はどのようにして決められましたか。
上に掲げたコンセプトを元に、宇治田さんとVEJの池田さん宮沢さんと打ち合わせして決めました。どの方も個人的な興味や考えが発端となってのオファーだったと思います。
5 それぞれの冊子のテーマについてお聞きします。各楽曲とマンガ家の組み合わせについて教えてください。
楽曲と漫画家さんの組み合わせは、相乗効果のようなイメージを持って依頼をしましたが、依頼の際にそれはあまり伝えませんでした。いい意味で予想通りのものは1つもなく、全て想像なんて飛び越えていました。
○「リアレンジ」とは何ですか。
音楽におけるリアレンジは、アーティストが過去にリリースした曲を、自身もしくは別のアーティストが新たに編曲し直しリリースする事で、リアレンジ曲は元より、原曲に出会う、もしくはもう一度耳を傾けるきっかけになる行為…と聞いています。
冊子A-1は、企画タイトル通り「音楽を絵でリアレンジ」ですが、同じ効果が生まれるといいなと思っています。
6 「視点」ということですが、竹本良さんとは何者ですか。
音楽、マンガ、映画といった文化的なくくりのなかで宇宙的な方を選ばれたのは。
竹本さんは科学問題研究家で、大まかに言うと宇宙のあらゆる可能性について肯定的な考えを持って、テレビや雑誌などでも活躍されています。
ある可能性に対して極論ではないところに目を向けている方なのではと、雑誌のテーマに通じていくような期待を持って、竹本さん自身に迫るインタビューを行いました。その思考を辿るために、通常インタビュー記事で削除されるような「…」や、言葉に詰まった時、言い間違えなども必要だと思い、削除をしないでなるべくそのままを収録しています。
7 世界的に活躍されるテーリ・テムリッツさんについて教えていただけますか。どんな方でしょうか。
またテキスト制作にあたってどんなやり取りがなされましたか。
テーリさんは、音楽家でもありますが、執筆やデザインも行われ、幅広く活躍されています。当初は絵をメインとしたものを考えていたのですが、テーリさん自身に発信したいものがあったことから、テキストがメインとなりました。
テーリさんはどんな方か…優しい、目が綺麗だった、シャイなよう…とか色々浮かびますけど、それだけじゃないので…まだ私自身が言葉で言い表せる程、掴めていません。
やり取りは、お会いした後は主にメールで、伝わりにくいことは写真で送って頂いたり送ったりしながら進めていきました。
テーリさんは狭間にある問題に目を向けた内容のテキストを書いて下さいました。
思いもよらなかったけれどわたし達にとっても切実な問題だと思います。
8 テーリ・テムリッツさんの7インチレコードについて、当初からコンセプトとして組み込まれていたのでしょうか。(※7インチレコードはLtd版のみとなります)
7インチレコードの案は途中から出ました。テキストを読んだ後に聴くのに、ぴったりの2曲、感触(気分)をくれる音楽だと思います。
「夏の終り」シナリオBOXの時は、ソノシートを作りました。今回はレコードを作る事ができてとても嬉しいです。
9 「私の男」のシナリオを収録されたのはなぜですか。また宮崎夏次系さんは「リアレンジ」に続いての登板となります。挿絵をお願いした理由を教えていただけますか。
「私の男」のシナリオは、原作小説から大胆に再構築されていると思います。
これは以前、宇治田さんとの話の中で出た事なのですが、原作がある場合の脚本作業は音楽でいえば“リアレンジ”や“リミックス”とも通じるものがあるのではないかなぁと思うんです。作品によってアプローチの仕方は様々だとも思いますが…2時間にするために原作から“何”を抽出するか、広げるか、一番に作業を始める脚本家のセンスによって映画の骨組みが出来上がります。
「私の男」のシナリオは初めて読んだ時、シナリオそれだけで、突き抜けるような感覚を与えられました。凄いと思いましたし読んでいて素直に面白い!と思いました。
過程に目を向けても面白いと思います。時代や、主人公・花に対する宇治田さん独特のアプローチが、完成された脚本の奥底から浮かびあがってきます。
宮崎さんへの依頼は、宇治田さんからの希望で依頼をしました。その時に話したのは、今回のシナリオに挿絵を依頼するのなら、読む人の内面の感覚や感触に寄り添う絵にして頂くのではなくて、主人公・花の内側にある感覚的な世界を表して下さる方に依頼をしたいという考えからだったと思います。
10 雑誌「Farben」をどういう風に楽しんでいただきたいですか。
この雑誌は、読んで、見て、自分の感性で受け取る要素が散りばめられた雑誌だと思います。普段の読書より想像する時間が必要だと思いますが、そういう時間の楽しみ方も
いいのではないかなぁと。受け取った人の中で、何か発見があったら嬉しいです。
年1回の発行ですが、次号もまた計画中です。
読者プレゼントも計画中なので楽しみにしていてください。